1.1. 仕事の本来的意味
現代的な感覚では、「仕事」というと、生計を立てるための行為、すなわち、金銭を得るための行為を指すと考えるのがふつうであろう。しかし、「仕事」の「し」とは、語源的にはサ行変格活用の動詞「する」の連用形の「し」であり、すなわち仕事とは本来「すること」の意である。これが単に「すること」全般を意味するのではなく、「すべきこと」というニュアンスをもつことで、現在の仕事の意味に通ずる言葉となった。
仕事の意味を本来的なものに戻して考えることは、仕事とは何かを考えることに役立つ。たとえば「呼吸をする」というのは人間が必ず「すること」であり、また「すべきこと」である。それでは無意識に行なっている呼吸は仕事なのかというと、多くの人にとってそれは仕事とは言い難いであろう。
ところが、歌手やアナウンサー、通訳、ナレーター、水泳選手やマラソンランナーといった呼吸を巧みに使うべき職業の人々はどうであろうか。呼吸を乱さずにいるということはとても大切なことであろう。特に際立って呼吸を職業にしていない人においても、プレゼンテーションや、スピーチや討論においては、呼吸法というのがとても重要となる。つまり、呼吸することも仕事のうちとなろう。肝心な点は、そのような仕事としての呼吸は無意識的なものではなく、無意識にできるような訓練の期間があることや、呼吸の巧みさという点で他者のためになるような積極的な行為であるという点である。その呼吸が当の本人の生命維持のためのみのものであるならば特にそれを仕事と呼ばないが、誰かのための呼吸であるならば容易に仕事となりうる。
「すべきこと」の「べき」という義務が自分ではなく他者に向けられたものであるとき、その「すること」は仕事として他者から認められる。こうして自分と他者との関係性の中にこそ仕事というものがあるという見方ができよう。
→つづく