創造的仕事の社会学

たとえ組織の中に居ても、雇われているだけの仕事でなく、あくまでも自発的に物事を創出するようなスタイルとは? 惑うことなく豊かな精神性を持って仕事に向かいたい人々のためのエッセイ集。

1.2. 社会システムのための仕事

前記事のように、仕事というのは本来的には単に「すること」といったありふれた意味であるが、そのなかでも他者のために向けられた行為について、他者から仕事と認められるものである。すなわち、仕事が仕事である条件は絶対的に決められるものではなく、仕事とはそのときその状況において、他者がどのようにその行為に価値を見出すかによって相対的に決まるような社会的な存在である。それでは何故、仕事はこのように社会的存在としての性格をもつに至ったのだろうか。

  ここで社会とは、人間が共に生き長らえ、安心・安全の生活、もしくは豊かな生活を送るために、複数の人間が寄り集まって一体となった機能を発揮させるためのシステムである。ホモ・サピエンスたるわれわれは太古より、個人が荒野で生きるよりも、様々なしくみを備え複雑性が構築された社会を形成し外部環境に対峙するほうが自らの生存確率が高まるということを体現してきた。今も昔も、人間にとって集団のもつ要素機能の複雑性の保持こそが外部環境の変化に対応するための有効な方法であった。言い方を変えれば社会的行為を望み、創造的に要素機能をつくっていくことを最善とする特性をもった種としてわれわれは生き延びてきたのである。

  ところが、社会という一つのシステムが安定に存続することを乱す要因としては、システム外部からの擾乱(天候、自然災害、外敵からの侵略、など)だけではない。社会という一つの有機体を築くのは個人個人の創造的行為の結集ではあるが、実はその創造性こそが当の社会的システムを破壊する要因となりうる。類い稀なる創造性を備えた個人を起点として変革的な集団が出来始め、既存の社会的システムを破壊し、新たなシステムを構築するということは、これまでの人類史を見ても明らかである。

  アリや蜂といった種は、人間から見ても驚くような外乱に対する安定性をもった社会的システムを構築しているが、これらは生得的にもつ役割を分担し仕事をしており、そこに人間に匹敵するようなレベルの創造行為が多分にあるとは言えないため、内部からの変革によるシステムの破壊に対応する必要がない。したがって、アリや蜂などの社会システムはとても安定的に存続しはするが、その複雑性が加速度的に発展することはなく、発展のためには突然変異的な自然の力を借りなければならないであろう。

  こうしたことから、人間の社会システムの安定のために特に重視されなければならないのは、個人レベルの創造性が他者へ与える行為である。社会システムの維持に対して悪影響を与える創造行為は厳しく取り締まろうとしたのが、われわれ人間の歴史であった。

  だからこそ「仕事」とは、社会的システムからすれば誰かが自発的に「すること」の意味からずれて、社会が「させること」、「担わさせること」、あるいは社会が個人に「従わせること」として個人に与える「役割」となった。仕事が「苦役」を意味する人類の「仕事の歴史」はこのような経緯により成立したと考えられる。

  こうして仕事は、「すること」という素朴な意味を越えて、時代とともに移り変わる身分制度などの社会構造上の文脈から大きな影響を受けながら、みずから他者のためにすべきことと思って自由に「すること」を決めて成立するのではなく、社会システムから支配的に与えられ、そこで成果を出すことで自分の生存を認められ、あるいは何かへの所属を認められうるものとなった。これは現代にも残存する仕事の一つのアスペクトである。

 

→続く